第3章 耽美主義
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「…何とも幸せそうな寝顔じゃないか」
そんな信玄の言葉に、謙信は一瞥で返した。
そして、普段は何を考えているとも知れないが、流石に狸寝入りとそうでない区別くらいはつく…
それほどに酒酔いで緩みきった、無防備なの表情を暫し見下ろす。
宴が始まって早何刻…広間は死屍累々の様相を呈していた。
も例に漏れず、寝潰れている…ただし、謙信の膝の上にしっかりと頭を置いて。
起きていればさぞ喜んだろうに、と信玄はその笑顔を想像し、微笑む。
寝ていてもなお、その視線を感じるのだろうか?
の口元がへらり、とにやけて綻んだのに、つられたように謙信は一瞬微笑むと。
しかし次の瞬間にはきっと口元を締め、の身体をゆっくりと抱き上げた。
「おいおい、送り狼になるなよ?」
「お前と一緒にするな。俺は酒に酔っても、そんな事はしない」
彼女と話す時とは全く違う声音に苦笑しながら、信玄はその後ろ姿を見送った。
そして冷たい目線と冷たい話しぶり…その割にしっかりと大事そうに、彼女を抱く腕を見留める。
「酒に酔っても、ね。
過ちを犯してしまえば、何か変わるかもしれないな…?」
独り言は、思いもよらず静まり返った広間に響き渡る――一瞬、ひやりとするも。
誰が反応する気配もなく、胸をなで下ろし…くぁ、と堪えきれない欠伸がこぼれる。
そしてええい侭よ、と酔いに任せ…
信玄も、眠りへと身を投げるのだった。