第18章 月の兎は冬に焦がれる
「…特に、理由などない。
強いて言うなら、ただの癖だ」
「せっ…せいへきっ…!!」
思わぬ答えにあんぐりと空いた口が、塞がる前に。
謙信様はさらに言葉を続ける。
「そうだ。
例えば、触れていると段々と朱に染まる背」
「わ、ぁっ」
謙信様が背中に唇を寄せる。
触れるだけの仕草なのに、思わず声が出る。
「感極まると、羽根のように反り立つ肩骨も」
「…っ、ん、」
肩甲骨にかり、と歯を立てられ。
何とか声は我慢したけれど、息が盛れる。
「お前が見えないお前を知っているというのは、気分が良い」
嬉しそうに、そんな風に言われて。
謙信様の顔は見えないのに、微笑んでいるのが想像出来て…