第18章 月の兎は冬に焦がれる
「信玄様…大丈夫ですかねぇ」
謙信様は私の問いに、さほど興味無さげな様子で大丈夫だろう、と応えた。
「殺しても死ななそうなあの男の事だ。
今頃くしゃみでもして、誰の噂かとニヤついているだろうな」
「そうですよね…佐助くんと幸村もついてることだしっ」
あの騒動の後。
春日山に帰り着いた私たちが見たのは、今までにないほどの勢いで咳き込む信玄様だった。
喀血したのを幸村が見つけたらしく、私たちと入れ替わりで足早に信濃へと帰って行った…
療養するには慣れ親しんだ土地が良いだろう、との判断だ。
いつか、信玄様の部屋に入った時に見た…
荷物は少なく、調度品もない、驚く程に殺風景な景色を思い出す。
今思うと、自分の行く末を覚悟していたのだろう。
それでいて私の心配までしてくれていたのだから、本当に強くて、優しい人だ…
出立の前には、冥土の土産にの顔がまた見れてよかった、なんて軽口を叩いていたけれど。
そんな信玄様の事を心配して…勿論それを口にはしないけれど、謙信様が佐助くんをお供に付けている。
何かあったら、すぐに便りが来るだろう──