第17章 利己主義
冷ややかな、しかし熱の篭った。
低く身体中に染み渡るような声が、耳に届く。
とうとう、自分に都合の良い幻聴まで聞こえるようになったか?
でも、この声を私は聞き間違えたりしない、するはずも無い。
だって、あれだけ夢に見たんだもの──
勇気を込めて、拳を握り込め。
まさか、と弾かれるように顔を上げた、その先…
「…謙信、さま、」
「…怪我でもしたのか」
潤んだ視界でも、貴方の顔だけはハッキリ見える…
涙ぐんでいたから、良い方に勘違いしてくれたのか。
謙信様はそっと屈むと、長い指をそっと私の頬に添えた。
「あの、怪我はお陰様で無いのですけどっ…
どうして、謙信様、」
「謙信様!信長様も…!!
まったく、物理法則を無視するのはやめてください」
「なんだ、そのぶつり、とやらは」
謙信様しか視界に入っていなかったから、気づかなかったけれど。
いつの間にか織田信長様と、佐助くん…そして光秀さんも、風がやみすっかり元の景色の本能寺に降り立っていた。
「…普通は、風は刀じゃ斬れないんです…
貴方達にそんな常識が通用しないのは、分かっていたつもりだったんですけどね」
「現にこうして斬れたであろう?
貴様、先の世から来たと言う割に頭の固い奴だ」
「何を言っている、佐助。
斬れぬ物なら、好き好んで信長と共闘などしない」