第17章 利己主義
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元の世に戻ってきたなら、また働かなきゃ。
なんて言っても、営業以外には考えられないな…
また朝早く起きて時間かけて身支度して、そこから昼ごはんも食べずに夜まで働いて、フラフラで帰ってきて呑んだくれる、そんな怠惰な日々が始まるのか。
謙信様といた時は、それはそれは健康的な暮らしだった。
…宴の次の日以外は、だけれど。
朝早く起きて、謙信様のおられる剣舞場まで行って、鍛錬を見学するんだ。
春日山城の剣舞場は東向きで、射し込む朝日の中に凛と立つ謙信様の美しさと言ったら…
そりゃもう、筆舌に尽くしがたいイケメンだった。
まるで舞い踊るような刀捌きをしばらく堪能すれば、陽光を照り返し、妖しく輝く刃を鞘にしまう音が鳴る。
それが、鍛錬終わりの合図だった。
町に下りる時、宴の時ですら傍らに置いて肌身離さない姫鶴一文字。
沢山あるその中でもとびきりの、謙信様の愛刀…
美しいですね、と言うと、分かるか、と嬉しそうな声が返って来た。
俺の命とも呼べる物だ、と笑う謙信様はまるで少年のように可愛らしいのだ。
そんな鍛錬の後、剣舞場の隅っこに並んで座り、刀の手入れをお手伝いする。
たんぽ、打ち粉、袱紗、と言われるがままにお手入れ用品を手渡していくだけの簡単なお仕事だけれど、役に立てる事が嬉しくて仕方ない。
我慢できずニヤついていると、何がそんなに楽しいんだ、と怪訝な顔をされ…でも、優しい瞳がこちらを向く。
彼の何もかもが忘れられない、朝のたった一時ですら──