第2章 主情主義
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「っ、はっくしょ!!…うー…」
幸村は、自分のクシャミで目を覚ました。
灯していた筈の行燈は消え、真っ暗な部屋は寒々しい。
徐々に目が暗闇に慣れてきて、辺りを見渡すと転がった徳利と、二つの盃。
そして、すっかり空っぽになった味噌桶…
「んだよ、彼奴…」
彼奴だけ部屋に戻って寝たのか、一声かけてくれたらいいのに!
そう独りごちながら、片付けようと立ち上がった所で…
部屋の片隅できらり、と煌めく二つの光に気付いた。
見間違いようもない、あれは獣の瞳…独特の緑に、思わず身の毛がよだつ。
急いで廊下へと繋がる襖を開け放つと、漏れ入ってくる光でその正体はすぐに分かった。
「…なんだ、兎かよ!驚かせんなよなっ…!!」
一羽の兎が、襖が開けられるのを待ち望んでいたかのように…
まさに脱兎のごとく、部屋を飛び出していくのを見送る。
そして見送りながら欠伸を一つ、片付けも何もかも明日でいいか、と酔っ払いらしい潔さで、幸村もその部屋を後にする。
何故、閉じられた部屋に兎が迷い込んでいたのか…と、ほんの一瞬頭をよぎり、首を傾げた。
そんな事も酔いの向こうに、すぐに忘れ去られていくのだけれど。