第14章 自由主義
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「…ったく、彼奴はまだ寝てんのかよ…」
「珍しいね。
さんなら、何を置いても見送りに来そうな物なのに」
幸村と佐助が気忙しく門の内側を見遣るのを、気にもとめない様子で。
謙信は愛馬にひらり、と跨った。
朝日に毛並みが艶々と輝くのをひとなでしてやると、秘めた気合が伝わったかのように白馬は小さく嘶く。
「見送りなど不要だ。
今生の別れでもあるまい」
「しかし、何があるかなど分からないだろう?」
信玄の挑発めいた声色に、謙信はぎらついた視線を向けた。
戦いに向けて上がった士気を向けられても、信玄は嘲笑で返す。
「小国との小競り合い程度で、俺がどうにかなるとでも思っているのか」
「俺はそんな事を言ってるんじゃない、分かっている癖にな」
「…ふん」
謙信が強く手綱を握ると、白馬は軽く地面を一蹴りし、駆け出した。
今回の行軍に着いていく事になっていた佐助も、慌てて自分の馬へと飛び乗る。
しかし、駆け出す直前…思い出したように、振り向いた。
「信玄様、幸…さんのこと、頼みます」
「無論だ。
佐助も、気が立っている彼奴の子守りは難儀だが宜しく頼むよ」
「…ったく…何奴も此奴も、しゃーねえな」
「はは、あの二人も幸とすずを見習わねばいけないな」
「ばっ…!!そ、そんな事言ってないですから!」
いつも通りのやり取りに、くすり、と小さく口元を緩ませて。
佐助もまた、主を追い全力で駆け出すのだった。