第14章 自由主義
「佐助くん…?」
とりあえず、居てくれたら安心な人の名前を読んでみる。
影の主は答えないし、動きもしない…
きっと、何かを人影に見間違ってるんだろう。
そんな風に気持ちを落ち着けてみる、けれど。
「その声は、か」
静寂の中で、低く這うような潜められた声が自分の名を呼ぶ。
今日一番、びくり、と身を震わせ。
それから落ち着いてその声を反芻して、気付く──
「光秀、さん?」
「当たりだ。声だけでよく分かったな」
影の主は月明かりの下へと歩み出て、黒装束を自ら剥ぐ。
その中から出てきたのは、ついこの間分かれたばかりなのに随分懐かしく感じられる、光秀さんの顔だった。
「どうしてここに…!?」
「しっ、夜は声が響く」
忍び込んどいて何言ってんだ、なんて言葉を飲み込み。
このままでは危険だと、ひとまず部屋に引き入れる。