第12章 合理主義
自分は、他人を…特に女を不幸にするのだ。
未だ若かったその昔…寄ってきた女は漏れなく、自分が隙を見せればころり、と心映を変えた。
唯ひとり信じた女は、自らその命を絶った──
それが分かっているから他人を遠ざけて居るのに、この女だけはまるであの兎達のように、性懲りも無く寄ってくる。
不躾で、無遠慮で、無粋で、大きく口を開け手を叩いて笑う。
その癖、人の心を読んだように先回りして動く。
女好きの信玄に、危機感も持たずに擦り寄って笑い合い。
あれでいて酒癖の悪い佐助と絡んで酒を呑み、俺にわからない話をする。
他人に簡単には心を許さない幸村を、いとも容易く懐柔している。
そうやって、他の男に愛想を振り撒く癖に。
しかし次の瞬間には、傍に置いて欲しいとしおらしい声色で言うのだ──
兎に成りたい、などと。
馬鹿げた妄言を吐きながら、酒を呑んだくれる姿を思い出し。
らしくもない笑みが零れ、そっとその白い背中を抱き、添い寝する。
自分では、幸せにしてやる事は出来ない。
だからと言って、手放す事など出来ない。
己を何かの代わりなのだと勘違いしていようと、自分には弁明してやる資格がない──こうして衝動のままに抱いてしまった今なら、尚更そうだろう。
「…お前の代わりなど、居るはずもない。
」