第12章 合理主義
時間が経つにつれて段々薄まって、その間に色々あって忘れていたけれど。
すごく品の良い、珍しい香りだった。
謙信様ならなんて言ってくれるだろう、と考えていたのを思い出す…
それまでの切ない気持ちもどこかへ行ってしまう程、謙信様の感想が気になって仕方ない。
「あの、謙信様っ…
今朝、女中さん達が香油を塗ってくれてっ、」
「鼻につく、匂いだ。
後で、湯浴みをしてくるんだな…っ」
冷たい言葉に愕然とする私を他所に、謙信様は抽挿を再開した。
悲しくて空っぽになってしまった頭の中に、自分の艶めいた声ががんがんと響く。
好かれなくてもいい、と悟ったばかりなのに。
良く思われたいなんて、本当に自分は浅ましくて、救えない…
求められる事にだけ応えていれば、一緒に居られるかも知れないのに。
だって、今回の一件で分かったんだ──
「謙信様っ…あ、あっ…!!」
謙信様のお傍にいる事が、私の何よりの望みなのだと。
痛くても苦しくても、傍に居れない事よりはきっとずっとマシ。
離れていた時のことを思い出して、急に視界が真っ暗になるような感覚。
触れているはずなのに寂しくて、思い切り目の前の彼にしがみつく。
「…そう、煽ってくれるな…!」
「あ、んんっ、だってぇっ…!!」
だって、もっとして欲しいし、もっと見て欲しいし、もっと好くなって欲しい。
頭の中で光が明滅する。
もう何も考えなくさせて欲しい、貴方のこと以外は、
貴方が私を、どう思っていてもいいから──