第10章 【閑話休題】鞠の心【頂き物】
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ばちん!
弾いた手に鈍い痛みを感じ、胸元へ手を引いた。
手を叩かれた信長様だって、同じように痛いはずなのに、ごめんなさいが言えなかった。
「一人にして!」
お願いだから、私に構わないで。
この胸にしまってあったパンドラの箱の蓋をあの子が……あの子のせいで……!
箱の中身は勢いよく噴出して、言葉をとめることも出来なかったし、態度を落ち着かせることも出来なかった。
私の心術は、元々こんなだったと、思い出した。
彼女に対する気宇は、初めからこうだったのだと……
それを慰めてもらうのは、何か違う気もして。皆心配してくれるのに、理由も言えず反抗することしか出来なかった。
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「今日から配属になりました、です。 好きなものはお酒、それとお酒、そしてお酒です!よろしくお願いします!」
あの日、可愛らしい笑顔で挨拶をした彼女を、主任がぽんと肩を叩いたのを複雑な心境で眺めていたのに、どうしてか、私の顔は満面の笑顔で。 「頑張りましょうね!」と返せば、屈託のない澄んだ瞳で「はいっ! 鞠先輩、よろしくお願いします!」と初対面から私を名前で呼ぶ彼女を、少々気に染まないな、と思ったなんて誰に言えただろう。
心にしまい込んだこの気持ちはじわり、じわり、滲んで。
あの子が気付きもしない事を余計に気疎く感じるのも時間の問題だった。
今までは主任と二人三脚でバリバリ仕事をこなしてた。
契約を取れば彼の役に立ててるんだと思ったし、彼の役に立ちたかったから。
……ううん、ホントのことを言えば、彼に褒めてほしかったんだ。
それが、何よりの喜びだったから。