第8章 懐古主義
恐らく、物心ついた頃には既に。
自分は幸運の星の元にいる、と思っていた。
四択の問題、外した覚えが無い。
ババ抜きなんかでも、負けたことが無いし。
席替えしようがクラス替えしようが進学しようが、いつも楽しい友達が沢山いて、不満などひとつも無かった。
そういう小さな幸運に囲まれて育ってきたから、将来の事なんて能天気な物。
ただただ漠然と、沢山の人と関わりたい、なんて考えて…
女の子には向いてない、辛くてキツい仕事だ、そんな反対を押し切って営業職について、そして、気付いた。
自分のこれまでは、幸運ではなく必然だったのだ、と。
小さな目配せ一つで、顔色を変えただけで、手の置き場所だけで。
お客様が何を考えているのか、大方予想がついた。
私のこれまでは幸運では無くて、相手の気持ちを読むのが得意だったお陰なのだ…と、なると。
…これ、もしかして営業…天職なんじゃない?