第13章 心配【降谷夢/リクエスト小説】
「…はどうやら、叱られるのが好きなようだな」
「まさか」
渡した書類に記載したのは【反省する気は毛頭ありません】をA4サイズいっぱいにでかでかと印刷した文字。
「出て行ってもらえませんか、忙しいので」
「経費削減。コピー用紙もタダじゃないんだ、遊びで使うな」
「それでしたら後でしっかりと追加しますので大丈夫ですし、遊びのつもりもありません」
そういう問題じゃないのも分かっているし、そんな書類を上司に渡すものではない。
分かっている。
この人は恋人以前に上司で、…だから
「はっきり申し上げますと今は貴方と、話したくないですので出て行ってもらえませんか」
だから、こんなに胸が苦しいのだ。
「そうか」
それなら、と降谷さんが扉を閉めて鍵を施錠する音が響いた。
「上司として躾をしないといけないようだな」
何をするつもりだと首だけ振り返れば、顎を掴まれて唇が重なっていた。なんのつもりで、どうして今なのか。
されるのが嫌というわけではもちろん無いし、だけど…なんで今なのだ。
口内に乱暴に挿入ってくる舌に、抵抗を表して加減も忘れて歯をたて噛んだ。
「痛っ…」
口内に広がる、血の味。
唇を抑えて血が滲む下に顔を歪める零が、怖い目をしていて。
「上司に噛みつくとは、いい度胸だな」
「…上司がこんなことをしたら、強制猥褻で訴えることが可能だと思いますが」
「お前が本当に嫌がったら、強制だな?」
噛みついた時点で嫌がっているのは十分わかるだろうと睨みつけるが、あいにくこの人にそれは効かない様子で。
「なぁ」
突然。
「試してみるか」
耳元で甘く低く脳に響く声。
背もたれに零が手をついて…
「っ、やめてください!」
「どうして?」
「仕事の邪魔です」
「話しているだけなのに?」
返す声が、どうしてそんなに甘いのか。
怒っているのは伝わるのに…私が苦手な、甘い声音。
「直々に教えるよ、正しい書類の書き方を」
そんなことしなくていい。
「まず先ほどのようなテンプレートを使用しない場合のページ設定だが」
マウスに手を重ねられて、その指を絡めるようにマウスを動かす。
「っ…」
「どうした、耳まで真っ赤になって」
椅子の背もたれだけが、この人との唯一の壁。
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