第9章 アンケ夢/安室透【痴話喧嘩】
「…ふ、…今日は大胆ですね」
甘い甘い声。
「…っ…あー、……ごめんなさい」
恥ずかしい。
やらかした。
開き直るしかないのだとしたら。
「……この人、私のだから」
透さんに抱きついて女子高生に向かって声をかけた。
…顔は、上げられなかった。
明日から外を歩くのが怖い。
ポアロに明日からどんな顔して来れば良いんだ…
「〇〇、離してください…珈琲冷めてますよ」
あとお客さん帰りましたよ、と笑われて。
「……っ…ごめんなさい」
「いえ、…可愛かったですよ」
「〇〇さん、どうしたんですか?元気なかったですし」
「………梓さんが、掲示板で叩かれてるって話聞いて…」
「喧嘩の理由って私ですか!?」
「いえ、…僕がモテるとかそのようなことを言われたので…〇〇も自覚ないですよねって、つい。それから言い合いに」
「惚気ですね!」
興奮気味の梓さんに、合わせる顔がなくて俯いた。
「掲示板、私のことも書かれてますけど…〇〇さんのことも、よく書かれてるんですよ?」
「え?」
「だから、私は〇〇さんが書かれてる内容のほうが心配でしたけど」
…自分のこと、確かに書かれていた気もするけど見る機会もなかったしほぼ消したから読んですらいなかった。
「…だから、〇〇は自分のことに関すると疎いと言ってるじゃないですか」
ごめんなさい、と体を離しながらも透さんのエプロンを握ったまま。
「……そんな顔で仕事、できるんですか?」
どんな顔をしているのかなんて見られたくもない。
情けない顔をしているのはわかってる。
自分でも引いているのだから。
「本当にラブラブですね」
「…そうでありたいです」
「〇〇が素直じゃないだけですよ」
私だって梓さんに嫉妬することはある。
でも…それ以上に良い人で、なにより透さんがお世話になってる人。
好きな人に好かれたいなら…その人の周りを大事にしたいに決まってる。
「女子高生にムキになるなんて、まだまだ〇〇も若いですね」
「………そういうことじゃない」
「そうですよ!」
私に便乗する梓さんが、私の肩を掴んで背後から透さんを見上げる。
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