第8章 夏の思い出/スコッチ・降谷【警察学校時代】
零との待ち合わせのために部屋をでるタイミングにあわせて、ヒロくんが共有フロアへ戻る。
楽しんで、と頭をぽんぽんと撫でられて頷いた。
履きなれない下駄。
いつもより歩く速度が遅い。駅に着けば浴衣を着ている人が増えてきて。
「零っ」
「……え?」
改札近くで零が時計を気にしながら待っていて、待たせたかなと思って駆け足でお待たせしました、と言いながら駆け寄った。
「……〇〇?」
「え、うん、私だよ」
「びっくりした」
浴衣着たんだな、と言われた後…零が頬を赤く染めながら口元を抑える。
「…いや、すごく可愛い」
「ほんと?よかった!」
零にそう言ってもらえるのが一番で零が手を差し出してくるから嬉しかった。
手を繋いで零が照れているのが分かって、恥ずかしさと嬉しさが混じる。
夏祭り会場は、とても人が多くてはぐれないようにと言って零が強く手を握ったから…頷いた。
射的に綿あめ、たこ焼きにお酒を飲んで。
人ごみに疲れた頃に会場から少しだけ外れた場所で花火を見ることにした。
ここ穴場みたいだ、と言った零はきっと調べてくれていたのだろう。
ちらほらといるのは、カップルばかり。
なんだか気まずさを感じながら、ベンチに座る。
汚れないようにと零がタオルを敷いてくれた。
「…浴衣、着てくると思ってなかった」
ありがとう、と言って零がキスをしてくる。
人目だってあるのに。
周りもカップルばかりだから気にならないはずだって自信ありげに言うから…目を瞑る。
触れるだけのキスなのに、すごく心臓がうるさくて…まだ、慣れることはない。
少しだけ離れた唇は磁石のようにまた引かれあい重なる。
ドーン、という花火の音が聞こえれば、零の胸板を押して唇が離れる。
「…花火、見よ」
「………綺麗だな」
「もう、適当な感想言わないで」
私しか見てないその視界に花火が映るわけないと思って言えば…小さく笑われて。
「〇〇の事だよ」
綺麗だよ、ともう一度言われる。
「っ…今日の零……恥ずかしいことばっかり言う…」
零が腰を抱いて、今日ならもっと言える気がすると優しく笑うから…それ以上はやめてほしいと俯いて告げた。
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