第8章 夏の思い出/スコッチ・降谷【警察学校時代】
傷ついていないかと言われると少しだけ傷ついていたのかもしれないけど、それ以上に信頼を置いている相手にこんな風に恥ずかしいという気持ちだけで親切心を無下にできないと思えば胸元を隠すようにしていた両手を離した。
「…っ…」
「ヒロくん?」
「あ、いや…なんでもない」
声が少しだけ裏返ったヒロくんに首を傾げながらヒロくんが浴衣を広げ、私に羽織る。
「腕通して」
「…はーい」
「ちょっと触るよ」
胸下からウエスを両手で触られて
「ヒロくん、くすぐったい…っ」
「〇〇、そんなに弱いの?」
「あっ、ちょ、やめっ…!」
悪戯心に火がついたのか、くすぐってくるヒロくんに抵抗する私の図。
ヒロくんの力に敵うわけもなく、笑いすぎてヒロくんの肩にしがみついてしまう。
「もう許して…っ…」
「っ…ごめん、やりすぎたな」
「ばかっ…」
涙目になりながら睨めば、目をそらされて…ヒロくんの頬が少しだけ赤い気がした。
ウエストにタオルを詰めてヒロくんが姿見の前で見えるように私に着付けを教えてくれる。
一度ヒロくんが着付けをしてくれた後、帯を結ぶ前に再度最初からやり直しをした。2・3度繰り返して帯を結べばそれなりに形になって。着崩れを起こした際の直し方も教えてくれた。
「髪型、どうする?」
「え?してくれるの?」
本当になんでもできる人だな、と改めて感心する。
結い上げだな、と全てを任せる私にヒロくんは嫌がりもせずに髪を結ぶ。首元が涼しい。
浴衣にあいそうだなと思ったヘアピンをヒロくんに渡せば、横髪のアクセントとしてつけられた。
「可愛いじゃん」
「…そ?」
可愛い。
自分のことなのに、素直にそう思う。
全部ヒロくんがかけてくれた魔法のおかげだけど。
「そろそろでないと間に合わないんじゃない?下駄だと慣れないだろうし」
「送っていってくれないの?」
「いや、デートに付き添う保護者じゃないんだから」
俺は行かない、と言われて。
ここまでしてくれた彼がお祭りには参加せず、寮に一人でいるのだと思うと…それはやっぱり寂しかった。
「やっぱり一緒に」
「違う違う、俺も他のやつらと祭りに行くから大丈夫」
「…ほんと?」
「〇〇と違って友達いるから、俺」
「嫌味」
「俺は待ち合わせあるし、〇〇も降谷と待ち合わせてるだろ?素直に楽しんで来い」
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