第8章 夏の思い出/スコッチ・降谷【警察学校時代】
和服の着付けができる、ということに対して驚かなかったのはヒロくんに和服が似合うと思っていた私の勝手なイメージ。
「…昨日、動画とか見たんだけど」
「お、偉いな」
「………下着って、パンツも履かないの?」
ぶっ、と口元を抑えて噎せるヒロくんに慌てて飲み物を渡す。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫…っ、〇〇が変なこと言うからびっくりしただけ」
真面目な質問だったのに、と頬を膨らませれば、ヒロくんが頬を突きながらごめんと笑って謝る。
「〇〇って浴衣着たことないのか?」
「子供のころなら…中学以降は着てない」
「絶対似合うのに…勿体ない」
ヒロくんが言うことじゃない、と恥ずかしくなる。ヒロくんのほうが絶対似合うにきまってる。
「襦袢も中に入れているの、気づいた?」
「襦袢…ああ、あの白いやつ?」
「〇〇はスタイルが綺麗だし体の凹凸がはっきりしてるから、下着付けていると目立つから、上のほうは外して」
下は着て大丈夫だから、と言われて安心した反面…恥ずかしいことには変わりないことに気づいた。
「無理」
「降谷に可愛い姿見せたいだろ?」
「…うっ…」
「背中向けてるから襦袢着たら教えて」
恥ずかしさが、堪らない。
下心なんてあるわけがないのに、なぜか異常に意識をしてしまう。
食事を終えて早速着付けを開始すると言い出し背中を向けるヒロくんに背中を向けて、服を脱ぐ。
胸を支えるブラを外して、ショーツ姿だけになって後ろを気にすれば…恥ずかしくて、堪らない。
どうしよう。
「…ヒロくん……恥ずかしい」
「そんな躊躇われると俺も恥ずかしくなるんだけど」
着付けやメイクも男がしているところあるだろ?と言われて、確かにその通りだと。
「それより襦袢着た?」
「着た…けど」
「あーもう、振り向くからな」
時間が勿体ないと言われてヒロくんが振り返る。
思わず胸元を両手で隠すようにしていれば、ヒロくんが小さく笑って。
「警戒心もつのはいいことだけど、持たなくてもいい相手も選んでいいと思うぞ」
持たなくてもいい相手?
…自意識過剰だと、言われた気がして…それもそうか、と思う。私が高校の時に好きになったこの人とは、何の進展もなかったんだから。
そういう目で見られていないのだということくらい、分かっていた。
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