第8章 夏の思い出/スコッチ・降谷【警察学校時代】
「…でも」
「そんなに高い物じゃない…それに、〇〇に受け取ってもらえなかったら捨てることになるけど」
そんな言い方は狡い。
「買い取り…とか」
「俺の好意は受け取ってもらえない?」
「……浴衣の着方、知らない」
今日の明日で美容室の予約は間に合うのだろうか。
「俺着せられるけど」
「…ん?」
「明日、〇〇の部屋行くよ」
…ん?
聞き間違いかと思った。
だって私の部屋には、誰もいないことを知っているわけで。
私だけの部屋じゃないから、尚更…
「他の女子もいないんだろ?それなら…って、全然下心とかないから!!」
自分の部屋…というには、共同部屋だし他の子の私物も見られてしまう。
そのうえ…着せるって、裸を見せるというわけなのかと思うと顔が赤くなって。
「違う!絶対〇〇が考えてるようなことないから…!」
「…疑ってないけど、…恥ずかしい」
「そう言われると、確かに恥ずかしい…」
向き合いながらお互い顔が赤くなって、俯いて扉が開いた。
「何してるんだ」
帰ってきた零から隠すように紙袋に慌ててヒロくんが浴衣をしまって。
「早かったな」
「…別に」
「零、ちゃんと温まった?」
「平気」
これで温まるから、と零に背中から抱きしめられて。
ヒロくんも見てるのに、恥ずかしいと顔が赤くなる。
ヒロくんは笑って見てくるし。
「ゼロ、本当〇〇のことだと余裕ないよな」
「うるさい」
「…零、髪濡れてる」
シャンプーのいい匂い。
「〇〇が乾かして」
「……ヒロくん助けて…っ!」
心臓に悪い。
零が、甘くて…いつもからかってくる松田さんや萩原さんがいないからか…零がとても甘くて、心臓に悪い。
「…ゼロ、やりすぎ」
泣きそうになる私に耐えかねて、ヒロくんが私の手を引いて零の腕から抜け出させてくれた。
零から避難するようにヒロくんの後ろに隠れて、熱が集まる顔を落ち着かせる。
「…結局ヒロかよ」
「ゼロ、そういうわけじゃないだろ」
零が二段ベッドの下…自分のベッドに座りながらドライヤーをかける。
零が傷ついた、と分かっていても零から与えられるものは、たまに刺激が強すぎるのだ。
どうしよう、と助けを求めるようにヒロくんを見れば頭を撫でられて「拗ねてるだけだから」と小声で笑われた。
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