第8章 夏の思い出/スコッチ・降谷【警察学校時代】
萩原さん、伊達さん、松田さんは実家に帰って。
いつものメンバーで言うと、私とヒロくんと零が寮に残った。
寮母さんや寮長もいないその期間だけ。
私は、二人だけが過ごす部屋にお風呂上がりに、顔を出した。
「…髪乾かしてないのか」
「早く、来たくて…つい」
「風邪引くぞ」
共有フロアの監視カメラから隠れるようにタオルをかけて、零たちの部屋に向かう。
「〇〇、いらっしゃい」
「ヒロくんこんばんは」
ドライヤーいる?と聞かれれば頷いて零に渡す。
「なんだその手」
「乾かして?」
「なんで俺が」
「「じゃあ俺(ヒロくん)が」」
「ふざけんな」
半分本気で半分冗談。
零が嫌々言いながら、私の髪にドライヤーを当てる。
「…なんかいいな」
そう言ったのは、私でも零でもなくヒロくんで。
「二人のそういう姿、好きだな」
「…なにそれ」
「髪を乾かしてるだけだろ」
テーブルに肘をついて私たちを眺めるヒロくんに、少し照れながら答える。
「〇〇からいつ連絡くるか分からないからってまだ風呂に入ってないからな、そいつ」
言うな、と言う零を見上げるとドライヤーを止めて私と目をそらす。
「待たせてごめんね」
「…勝手に待ってただけだから」
「そんなわけでゼロは早く風呂入れ」
ほら、とタオルを零に投げつけるヒロくんは笑っていて。
すぐ戻る、と言って部屋を出る零に顔は緩まるばかりで。
「〇〇、明日隣駅で祭りがあるらしいぞ」
零がいなくなってから、ヒロくんがチラシを渡してくる。
「へー、楽しそう。せっかくだし、三人で行こ?」
「せっかくだから、二人で行くべきだろ?」
プレゼント、とヒロくんが突然渡して着たのは…白地に、青と黄色の花模様の浴衣。
「降谷には内緒だからな」
「いやいや、流石に受け取れないし、みんなで行った方が絶対楽しいよっ!」
「たまには、二人でデートしたらどうだ?」
俺らに気を遣わず、と言葉が続いて。
…気を使っているつもりは一切なかったけど、零と二人きりになれずにキスだって数えるくらいしかしてない。
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