第7章 アンケ夢/降谷零【警察学校時代】
降谷side
伊達の膝の上で楽しげに飲む〇〇の姿に、正直苛ついた。
……苛つく資格もないのは分かってるから、無言になれば松田や萩原がからかってくる。
せめて、と〇〇と伊達の隣にいれば〇〇が、お酒美味しいね、と缶を両手で持って笑う姿は…幼い子供のように無邪気だった。
「そろそろ片付けるか」
「〇〇の目も半分閉じてるからな」
伊達が〇〇に起きろと言うけれど、〇〇は首を横に振るだけで。
「というか降谷の顔、途中から怖くなってたから」
「好きなら告れば良いのにな」
「好きじゃねーよ」
好きじゃない。
…それを自分以外の誰かに言って認めてしまえば、我慢ができなくなる。
「好きな女には優しくしないとな」
「降谷が好きな女の子にそんな態度するって知らなかったぞ、俺も」
「あ、もしかして自分からちゃんと好きになったのが初めてだとか」
「そんなわけあるか」
…否定をしながら、こんなに熱い気持ちになったのは初めてだということを認めるには、目の前のこいつが無自覚すぎて苛つく気持ちも少しある。
「んぅ…うるさい…」
伊達の胸に顔を埋めて文句を言うその小さな声に、俺たちは自然と声を潜める。
「…降谷、〇〇を部屋まで送れ。まだ消灯時間間に合うだろ?」
「わかった…」
伊達も自分から引き剥がすために協力があり、〇〇の脇に手を入れて…無理矢理立たせる。
…指先に当たる柔らかい感触に気をそらすためにバレないように小さく深呼吸をした。
「お前ら消灯時間だぞ!」
寮長の声がまた聞こえて、俺のベッドの中へと〇〇を引きずりこむ。
…そんなに眠たかったのか、ベッドの中で頭まで布団を被ればご機嫌に笑う顔。
今にも話しだしそうな顔に、しー、と言いながら〇〇の唇に指を当てた。
…我ながらどうしてそんな動作をしたのか。
「…しー?」
「っ…そう、シー…」
指を挟んで、唇を近づけた。キスしてしまいたい。
…肉体的に男経験がないのは、暗黙の了解のように全員が知っていた。普段の言動からして分かることで。
ファーストキスだったら、こいつが怒るのだろう。
…ファーストキスじゃなくても、怒るか。
好きでもない男にされたら。
それでも、こいつが悪い。
男の腕の中で無防備に笑うこいつが。
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