第1章 初夜/降谷【警察学校時代】※裏
「…降谷くんはさ、私のこと見えてないでしょ」
一人で解決して進んでいた零の手を掴んで。
「ちっこいのじゃなくて、いい加減名前呼んで私を見て」
まだ、恋に不器用な零がいた頃。
「………え、もしかして風邪?体調悪かった?」
耳と頬が少しだけ赤いと触れようと手を伸ばせば避けられて。
「〇〇」
「…降谷、くん?」
「れい、だ」
「………零?」
名前を呼んで、呼ばれて。
模擬捜査を終えて戻った私たちの顔が何故か赤くて。
その日から、少しだけ距離感が変わっていった。
…あの頃、ヒロくんたちはそれを楽しげに見ていて。
私と零の関係を後押ししてくれるのはいつだって彼らで。
「〇〇、映画のチケットが余ってるんだけど」
初めて零と二人きりで出かけたのは松田さんが用意した恋愛映画のチケットだった。
「松田さん、こういうの好きなんだ」
「逆。俺こういうの興味ないから、友達誘って行ってきなよ」
「……友達?」
松田さんを指差して、自分じゃなくて、と笑われて。
伊達さんに言えば先約があると言われ。
荻原さんに言えば恋愛映画は苦手だと言われ。
ヒロくんに言えばもっと違う人誘うべきだと言われ。
ルームメイトにチケット譲った方が楽しんでもらえるんじゃないかと考えてたとき。
「〇〇、こういうの好きなんだな」
手元のチケットを覗き込むように背後から耳元に近い距離で零の声がして。
「零、今度の休み暇だったら…一緒にどうかな?みんなに断られて行く人探してる」
零がこういう映画興味なさそうとか、分かってたし…断られるのは分かってたのに。
「わかった」
顔が緩んでいて。
目があった私たちは、きっともう惹かれ合ってた。
約束の日。
寮のロビーで待ち合わせして。
Tシャツにジーンズで出かけようとした私をルームメイトが鬼の形相で止めてきて。
用意されたテンプレートのようなデート服に、着替えて…
膝少し上くらいの丈の薄ピンクのスカートに、白のレースのブラウス。履きなれないヒール。
「降谷くん、人気あるけど…絶対〇〇ちゃんのこと好きだから頑張って!」
「…私も零の事好きだよ?」
そういう意味じゃないと叱られて、背中を押されて部屋を出た。
…そういう意味じゃない、と言われたことを繰り返してそんな事ないと笑う。
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