第21章 アンケ夢/幸運助兵衛
昔の、話をした。
出会ったときのこと。
試合が終わって偶然を装って待っていたことや、偶然を装って、ばったり会ったこと、あの頃の俺と全く同じことをしていたことは、嬉しくもあり同時にだからこそ叶わなかったこの気持ちの行き先を失ってしまいそうだった。
「れー、に会いたい」
まったりとした甘い口調。
話に夢中で気づくのが遅れた。
完全に酔ってる。
「あー、もうだめ。それ以上飲んだら帰れなくなるだろ」
ワイングラスを両手で持ち口元をグラスで隠しながら「えへへ」と笑った。
その可愛さに思わず唾を飲み込んでは、これ以上はとグラスを取り上げて、その手を掴まれた。
「れー」
甘ったるい声。
「…かえりたくない」
いつもそんな風に誘ってるのだろうか。
羨ましいと、素直にそう思った。
「っ…ゼロに電話してくるから、待ってて」
駄目だ。
これ以上は、駄目だ。
一緒にいては…恋人しか、見てはいけないその顔。
俺に向けられているとほんの少しでも勘違いをしてしまったら、理性に自信がなかった。
携帯を探そうとした手を掴まれて、首を横に振られて抱き着かれて。
「っ、この酔っ払いが…っ」
悪目立ちをしてしまう。
支えるように肩を抱き、会計を済ませて店を出た。
人目を避けながらショッピングモールを出ようとしていたときにぐいっと首に腕を回され、唇が…重なる寸前に、手で押さえた。
むー、と擬音でも出そうなほど不満気な顔。
「彼氏と友人を間違えるほど酔ってるんだから、大人しくしてくれ」
ぺろっ、と掌を舐められた。
ちゅっ、とリップ音を立てながら俺の指を…咥えた。
視界の暴力だった。
両手で俺の手首を捕まえ、中指を中心に三本の指を唾液を絡めながら舐める。
「れー…あのね」
とても小さな声だった。
頬を赤くしながら、濡れた瞳で俺を見上げ。
「濡れちゃった」
「ッ…」
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