第21章 アンケ夢/幸運助兵衛
突き放した。
尻餅を着いて倒れた〇〇から目を逸らした。
頼む。
出てくれ。
今すぐに――…
唾液で濡れた手で、ゼロの携帯を鳴らした。
着信音は後ろから鳴った。
聞き慣れた着信音と、聞き慣れた声。
「ヒロ、遅い」
流石に疑いそうになったぞ、と着信音が鳴り止まないのは俺がコールをかけ続けているせい。
「っ…ぜろぉ…」
自分でも弱々しい声が出たと思う。
はいはい、と落ち着いたいつものゼロの声に思わず俺だって涙目になりそうだった。
「悪かった、ヒロ。…迷惑かけた」
あの荷物連れて帰るな、と〇〇を指さして笑う。
「頼むから、俺を試すのだけはやめてくれ」
「悪い、…少し、ムキになった」
少しじゃない、と言いそうになった。
尻餅をついていた〇〇がゼロに抱き着いて甘えるように擦り寄る。
幸せそうな〇〇の顔に、甘えられてだらしない表情をするゼロのその姿に、深い深いため息をついた。
「ゼロ、門限までには戻れよ」
「善処する」
あとは好きにやってくれ。
手を洗いながら、脳裏に焼け付くように残る〇〇の顔を必死に振り払い、寮へと足を向けた。
『諸伏ー、今週ラッキースケベだって』
始まりは、あの言葉だった。
その翌日に庇って、彼女の胸に触れてしまった。
それが、どうやったらこうなった。
否…酒を進めてしまったせいで。
少し困らせることができたらそれでよかった。
本気で癪に障った部分もあったけれど、それだけ彼女を好きだということを思えば嫉妬深いゼロのことだからと思っていたのに。
当て馬っていうレベルじゃない。
どこがラッキースケベだ。なにがラッキースケベだ。
とんでもない災難だった。
帰ったら萩原が見ていたあの本だけは処分する。
そう心に決めて、帰る足を速めた。
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