第21章 アンケ夢/幸運助兵衛
最悪の空気のまま、いつも通りの朝を迎えた。
「おはよう」と声をかけようとした俺を避けたのはゼロで。
気まずさで一言も口を利かなかった。
鏡を見れば頬が腫れていて、小さくため息をついた。
「おはよう」
〇〇が、朝一に俺たちに話しかけて。
「おはよう」
心配をかけないように笑顔を向けた。
返事をしないゼロに、覗き込むように「おはよう」ともう一度〇〇が言えば、腕を掴んでその耳元で囁いた。
甘い声を小さくあげた〇〇の声は、近くにいたゼロと俺にしか聞こえてなかっただろう。当てつけのようなそれに、どう対処するべきか頭を抱えそうだった。
「…零とヒロくん、喧嘩してるの?」
「誰かさんが原因でな」
「頼むから今日中に解決してくれ。同部屋の俺たちが気まずい」
「でも萩原さんと松田さんの喧嘩だってしょっちゅうだよね?」
「降谷と諸伏のは滅多にない上にほぼ冷戦だから気まずさが違う」
俺たちに隠れてこそこそと話すその内容は、ばっちり聞こえていて。
…俺だって、ゼロとこの空気は耐えられない。
味気のない昼食を済ませれば、恋しくなるのはゼロの料理で。
帰り道に捕まえて話すシミュレーションを何度も繰り返して。
「零、ヒロくん、帰り道どっか寄らない?」
恐らく伊達たちに言われたのだろう。
〇〇がいたほうが、感情的になるのは抑えられる。
「いいよ?どこ行こうか」
俺なりに譲歩していたつもりだった。
なのに
なのに、だ。
「ヒロが行くなら行かない」
子どもか、と思わず喉元まで混みあがった言葉は飲み込んだ。
「それならゼロはこなくていい」
俺たちのやり取りに狼狽えている〇〇の手を握った。
ゼロにだけ聞こえるように「このまま〇〇のこと奪うから」と囁いたのは、そう言えば来ると思ったから。
だが、ゼロは来なかった。
どこかに行きたかったわけではない。
俺とゼロを仲直りさせたかっただけであろう〇〇は行き場に困って近くのショッピングモールに向かった。
適当な言い訳であった「服が欲しい」の言葉を利用して、俺好みの服を着せて買った。俺は〇〇に選んでもらった服を着て。
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