第21章 アンケ夢/幸運助兵衛
【景光side】
降谷と二人きりになった少しの時間を狙って、〇〇の話をした。
掌越しにキスをしたことを馬鹿正直に話した理由は、自分の罪悪感を消し去りたかったんだと思う。悪いゼロ、と頭を下げていた俺に
「いっそキスしてたほうが、殴れたのにな」
自嘲気味に笑った降谷の言葉に、俺の中の何かが溢れ出した。
「っ、自分の彼女だろ!?」
どうしていつも試すようなことをする。
お互いに、だ。
探してくれると予想がつきやすい場所で時間潰しをしていた〇〇も、手放せないくせに自分から離れないことを確かめるかのように突き放す。
「二人がそんなんだから俺は―っ」
俺は、諦めきれない。
ゼロが好きだと笑い、ゼロがいいと言いながら、友人の立ち位置である俺との距離間は前にも増して近くなっていた。
昼間に触れた胸の感触だってずっと残っている。
ラッキースケベだ?
ふざけるな、当人としては理性で必死に押さえつけることのほうが優先だ。
「…ヒロが告白していたら、二人は付き合っていただろ」
だから言ったんだと。
ああ、確かに言われていた。
二人が出会う前に。
俺が〇〇を好きだと見透かされた時に。
「ふざけんな…っ」
こんなに低い声が出るとは、俺自身が驚いていた。
「ゼロにだけは…っ、言われたくない!」
力強く握る拳が震えていた。
俺を見るゼロの目がいつになく冷めているようで。
どこか、諦めているようで。
「俺がどんな気持ちで〇〇を好きだと」
「俺と同じ気持ちだろ。…俺が先だったか、ヒロが先だったか。それだけの違いなんだよ」
「っ…違う!俺は」
例え、先に告白していても。
あの子の目に映ったのは、ゼロだった。
だから諦めたんだ。
だから、背中を押したんだ。
だから――…
手が、出ていた。
握っていた拳が、ゼロの顔を殴っていた。
カッ、となったゼロが俺の胸倉を掴みかかり殴り返した。
お互いに、一発だった。
「なにしてんだ、お前ら!」
伊達が部屋に入ってきてゼロを押さえたから。
こんな、感情的な喧嘩をしたのは初めてだった。
抵抗をした降谷の手が松田に当たり、それにカッとした松田が手をあげて、止めようとした萩原にまで被害が広がった。
その日の寮部屋の空気は、最悪だった。
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