第21章 アンケ夢/幸運助兵衛
ショッピングモールで、お互いがコーディネートした服を着ることになったのは、ヒロくんの提案で。薄ピンクのシフォンのワンピースに袖を通してみたけれど、慣れないその可愛らしい服装にはかなりの恥ずかしさがある。
紺のテーラードジャケットにスキニーパンツ。…無難に似合う、と思ったけど想像以上に似合っているから隣に立つ私としては緊張をしてしまうんだ。
そしてなぜかとっても笑顔。
デートと言われたら私だったら信じてしまいそうな互いの格好に、なんだか零への罪悪感を覚えた。
「〇〇、お腹空かない?」
おいしそうだよここ、とカジュアルなイタリアンのお店を指をさし笑うヒロくんが、なんだか…
「そろそろ、聞かせてほしいんだけど」
「なにを?」
「零と喧嘩した理由」
「喧嘩してないよ」
にっこり、と笑顔で。
それ以上は聞かせないとでも言うような…
これとこれを、と話を逸らすように店員へ注文を入れるヒロくんに何とも言えない気持ちになった。
「帰ったら、降谷に俺から謝るから。…少しだけ、デートを楽しませてよ」
「でーと」
そのつもりだよ俺、と言うヒロくんは"らしく"なくて。
ワイングラスに注がれるワイン。
「…乾杯」
ほら、とグラスを傾けるヒロくんが笑う。
「一杯だけ、だよ」
その笑顔に弱くて。
一杯だけ、と言ったお酒はとても美味しくて。一杯だけのはずだったのに。
ヒロくんが、進めてきて。
楽しくて。
普段あまりすることがなかった、昔の話をした。
出会ったばかりの頃の話。
好きとは、言わなかったはずだけど饒舌になっていたことは否めない。
試合が終わって偶然を装って待っていたり。
偶然を装って、ばったり会ったり。
あの頃、可愛い恋の仕方をしてたと思う。
比べて、今はどうなんだろう。
出会いは良い印象はなくて。
名前を呼んでくれなくて。
そんなに、好きじゃなかった。
だけど好きだって意識をして…好きだって言われて。
初めてを、重ねて。
「れー、に会いたい」
ワイングラスを両手で持ち口に運びながら小さく呟いた。
会いたい。
零に会って、それから…
「あー、もうだめ。それ以上飲んだら帰れなくなるだろ」
美味しいお酒を取り上げられて。
ふわふわとした気分でぼやける視界。
「れー」
迎えに来てくれた。
「…かえりたくない」
もっと零に、触れたかった。
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