第21章 アンケ夢/幸運助兵衛
翌日。
頬を腫らした零とヒロくんの姿があって。
「おはよう」と声をかけた私にヒロくんが笑って「おはよう」と言った。返事がない零に顔を覗き込むように「おはよう」と言えば腕を掴んで耳元で囁くように「おはよう」と返されて…
朝から、心臓に悪かった。頬が赤い理由を聞こうとすれば話を逸らされて。
私にはいつも通り、というか…いつもより距離が近い零と、零とは口を聞かないヒロくんに気づいたのは昼食の前だった。あまりにも、教官はもちろん悟られないようにだが決して口を聞かないその二人にかける言葉が思いつかなかったんだ。
「…なんでヒロくんと零が険悪なの」
「なーんでだろうな」
「身に覚えないとは言わせないぞ」
がっしりと掴まれた肩。
振り返ると、同じく頬をわずかに腫らした松田さんと萩原さんがいて。
その奥には、疲労顔の伊達さんがいて。
「頼むから、仲直りしてくれ」
…想定外の展開だった。
「いや、昨日確かにヒロくんと帰ったけど」
「"帰った"だけか?」
私を見る松田さんの目がきつい。
昨日、確かに。
でも、だけど。
「……あれ、は」
「手を繋いで帰ってた」
「へ」
「降谷と喧嘩したタイミングでそれをしたら、怒るだろ」
あいつ嫉妬深いのは知ってるだろ、と深いため息を吐きながら言った松田さんの言葉に安堵したのは私だった。
手のひら越しにキスをした、のは流石に冗談でもやりすぎだって思う。
だけど、だ。
「それだけ…?」
「「「は?」」」
「っ、なんでもない!!」
危うく口が滑るところだった。
手を繋いだことなら、これまでだって誰にだってあるし。
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