第21章 アンケ夢/幸運助兵衛
ためらっていた私の隣に立ち、手を掴み引っ張られた。寮に向かう帰り道、繋いでいた手を解こうとするのが寂しくて握り返せば諦めたように笑われた。なんでもない話をした。最近食べた何が美味しかったとか、何が楽しかったとか、ルームメイトの話とか。でも、当然のように過るのは零の顔で。それに気づかれて「仲直りしなよ」と髪を撫でられた。喧嘩をしたわけじゃない。零の嫉妬は、いつものことではあるけど…でも、私だってヒロくんだけじゃない。伊達さんや萩原さんや松田さんとだって…
「ゼロが羨ましい?」
図星を、突かれた。
「〇〇は俺たち以外の友達がいない、とまでは言わないけど…それでも、俺たちに対してほど距離感は近くない。だから――」
――…だって…
「そんな顔、しないで」
言い過ぎたね、と謝るのはヒロくんで。
「もう、いい」
その見透かすようなヒロくんにはいつだって敵わない。
目頭が熱いのは、悔しくて。
私だけが…その友人関係にしがみついているようで。
繋いでいた手がとても冷たく感じて、手を離した。
「帰ろう、ヒロくん」
声が震えているのも悔しくて。
こんな顔、見られたくなくて先を歩こうとした。
「っ、ごめん…!言い過ぎた、ごめん」
その腕を掴まれて、引き寄せられる。
――何度目だろう、ヒロくんの腕の中に抱きしめられるのは。
「…そんなに俺の前で、隙を見せないでよ」
ぎゅっ、と力強い腕に抱きしめられて。
苦しいのに、ヒロくんの心臓の脈打つ音が早くて…そして、心地よくて。
「ひろく」
ヒロくんを見上げれば、口元を掌でおおわれて…顔が、とても近い距離で。
ちゅっ、と。
音が、した。
覆った手の甲にヒロくんがキスをしたんだ。
それを理解して、ぶわっと熱くなる顔。
「ほら、こんな風に悪い男に奪われるだろ?」
顔真っ赤、と笑ったヒロくんが私から離れて先を歩く。
「っ、ヒロくん!いまのはやりすぎ!!」
声を上げた私に軽口で「ごめんごめん」と言うヒロくんの大きな背中を追いかけても、隣に並んで歩くには…心臓の音が、うるさすぎて、寮までの帰り道、ヒロくんの顔を見ることができなかった。
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