第21章 アンケ夢/幸運助兵衛
「…相変わらずというかなんというか」
気まずさから避けるように帰宅時間をずらし、資料室で残っていた私に「見つけた」と苦笑いを向けたのは、零じゃなくてヒロくんだった。
「そんなにあからさまにガッカリしないで」
してない、とは言えなくて「ごめん」と小さく呟いた。
「何調べてるの?」
「今日授業で、なんとなく引っ掛かった事件があって」
「…参考の事件を、データへまとめてるの?」
「この方が、分かりやすいかなって」
「それなら、こうしたほうが」
後ろからタブレットへ伸びた手と自然と近づいたヒロくんから、ふわっと香る優しい匂い。
「ヒロくんシャンプーなにつかってるの?」
「え?」
「すごく優しい匂いがするから」
へっ、と裏返る声になんだかおかしくなって笑ってしまった。
赤くなる頬を掻きながら、困ったように私を見るヒロくんに頬の緩みを止められない。
「そろそろ集中力限界ー!ヒロくん、夜ご飯どっか行かない?」
「ん?寮でみんなで食べないのか?」
「零の顔が見たくない」
「嘘つき。それに、嘘でもそれは言ってほしくないけど」
俺も聞きたくないし、ゼロも聞きたくないだろ、と子供を叱るような優しい口調。
「だって」
「聞くよ」
でもここで、と指定されて小さく笑うしかなくて。
「俺が彼氏なら、〇〇に言われるとやっぱり嫌だから」
「……一緒にホテルに行った仲なのに?」
「っ!あれは!!違うだろ!!」
真っ赤になるヒロくんが、大きな声をあげる。
温かくなる気持ちと、笑いがとまらない。
「零がヒロくんに嫉妬するんだもん。私だってヒロくんの友達なのに」
「まぁ、俺が〇〇の彼氏だったら、嫉妬するだろうな」
「どうして?」
「一緒にホテルに行った仲だから?」
そう訊ねた私にヒロくんは揶揄い言葉を返して、乱暴に髪をくしゃくしゃ、と撫でてきた。
「帰ろう」
手を差し伸べられると、拒むことができないのはヒロくんの凄いところ。
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