第21章 アンケ夢/幸運助兵衛
【〇〇side】
「少しは落ち着いて行動しろ」
「あれは人がぶつかってきただけで、私のせいじゃないよ」
…ヒロくんの手の感覚がなんとなく胸元に残っている気がしてなんだかもやもやするのに、零は話を聞いてくれない。嫉妬してるんだと思う。特に相手がヒロくんだから。でも、…
「触られたいのは、零だけなんだよ」
聞こえているか分からない私の泣き言のような言葉は零に届いたようで、顔をあげれば困ったような顔をされた。
「…ご機嫌取り、上手くなったよな」
「ご機嫌取りじゃない…事実だよ」
そういう言い方は好きじゃない。零が「ごめん」と言いながら抱きしめてくれるから、私の不満はすぐに解消された。
「…零、…あの、嬉しいけど学校出てからが…いい」
「大丈夫、誰も来ないから。それに、見つかった時は〇〇が転びそうになっていたところを支えていたことにする」
「明らかに抱きしめてます」
「そう見えるだけだよ」
冗談を交える零の声が、明るくなったように思う。
そっと重なる唇は、我慢ができなかった弱さ。触れるだけの口づけをしながら、胸元を撫でる零の手は手首ごと捕まえてそれ以上をしないようにと睨んだ。
「ヒロに触られてたから上書き」
「ヒロくんは触ったわけじゃ」
「必死に抵抗してるの可愛いな」
ククッ、と笑う零は楽しんでる。
意地悪な零も好きだなんて思ってしまうから、ずるい。
「暫くヒロと二人きりになったり、近すぎる距離にいるのは禁止だ」
「…なにそれ。ヒロくんは」
「俺が嫌なんだ」
私の言葉は受け入れてもらえないほど、強い口調。
零が嫌だというなら、叶えたい。
だけど
「ヒロくんは私の友達だよ?」
「でもヒロは」
何かを言いかけて飲み込む零が、…不安げな顔をしていた。
「……零」
「悪い、帰りは一緒に寮まで」
それ以上はなにも言わない。
聞かないでくれ、とでも言うようなその雰囲気に。
「私のこと、信用してほしい」
「してる。…だが」
「っ!零はいつもそう!」
私が誰かに告白されたって話があれば、零はすぐに不機嫌になる。
その度な喧嘩になるのに、全然
「全然、わかってくんない!」
もう知らない、と背を向けて歩いた。
追いかけてくれると思っていた自分がいた。
だけど零は、何も言わず、追いかけることもなく、私と逆方向へと歩いて行った。
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