第21章 アンケ夢/幸運助兵衛
※プロローグ※
高校時代、出会ってからずっと好きだった。
一目惚れだった。
同じ警察という夢を持ち、そして同じ年に入校ができた。
だけど、彼女は降谷の恋人となった。
言っておくが俺は友人の恋人に手をだすつもりは一切ない。
それだけは誤解がないように言っておきたい。
己の中で繰り返す言い訳のような説明は、手の中に残る柔らかな胸の感触を忘れるための言い訳のようなものだった。
「ごめんねっ、ごめんね、ヒロくん!」
ヒリヒリと痛む頬。その原因は目の前の〇〇が俺の頬を叩いたから。
彼女の乗っていた脚立に人がぶつかり、脚立が倒れてしまった。その倒れた先に彼女を受け止めたのは偶然それを見ていた俺。怪我がないか確認しようと目を開ければ。「ごめんねっ」と庇われたことに謝罪よりも感謝を言ってほしいといつものように笑顔を向けようとしたのに…ふにゅ、と何かを掌が包んでいた。その柔らかく触り心地の良いそれに思わず手を揉むように手を動かしてしまった。
「やああああっっっ!!」
それは彼女の柔らかな胸だった。
〇〇の胸だった。
気づいて手を離したのと、俺が頬を叩かれたのは同じタイミングだったと思う。
彼女の叫び声で飛んできた降谷に伊達、それをげらげらと笑っている松田と萩原は後で覚えておけと内心毒吐いたのが少し前。降谷が近づいて俺の膝にいた〇〇を支えながら立ち上がり、俺と〇〇に怪我はないかと訊ねてきたのはほんの数秒前。
「いや、俺こそごめんね。怪我がなくてよかった」
不可抗力ではあったが、彼女の胸を触ってしまったことは言い逃れのしようがない。
「ヒロ、手を洗ったほうがいいんじゃないか?」
掠り傷できてるから、と付け加えられたその言葉の裏。
「ヒロくん怪我っ、私のせいで」
「大丈夫大丈夫、手を洗ってくるよ」
ひらひら、と手を振って二人に背を向ける。
手を洗えと言ったのは、間違いなく俺が胸を触ってしまったからで。
「本当、ゼロは嫉妬深いよなぁ」
二人が幸せなら、俺は割り込むことなんてするわけがないのに。
…まぁ、それはゼロも分かっているだろうが。
「柔らかかったな…」
掌に残っているわけがないその匂いを少しだけ嗅げば、心ばかりかほんのりと甘い香りがした気がした。
→