第1章
…
仕事と仕事の合間に少し時間ができたから、俺たちは街に繰り出してみることにした。
「神谷さーん、行きますよー」
「ちょっ、待てよ小野くん」
口調の割にはあまり急いでいない様子の神谷さんを置いていく訳にもいかず、俺は少し立ち止まって、彼が歩いてくるのを待つことにした。
神谷さんとは仕事で一緒になることが多くて、さっきの仕事でも一緒だったし、この後の仕事も一緒だから、たまたま出来たこの休憩時間までも一緒に過ごすことになった。
どんだけ一緒にいるんだよ、って感じだけど、いつもそういう訳じゃない。
この近くに美味しいジェラート屋さんがあるって後輩の女の子たちに教えてもらったから、ちょうど甘いものが食べたかった俺たちは、連れ立って行くことにしたのだ。
「お前、最近体つきだらしないぞ。少しは慎みを持て」
「えーっ、僕は慎み深く過ごしてますよ!神谷さんだって、一見細身に見えるけど実は…なんじゃないですか?!」
「ふんっ」
目にも止まらぬ速さで、神谷さんの綺麗な右ストレートが俺の肩にクリーンヒットする。
「いったぁ!!もう、全然手加減しないんだから、この人!」
「俺なりの愛ですわい」
「そんな愛いりません!」
神谷さんとの付き合いはもう随分と長くなる。だから、こんなに暴力的であっても、本当はすごく優しい人だと分かっているから、こうやって軽口で返したりできている。
そんな風にして漫才みたいな掛け合いをしながら街を抜けていく。
平日の昼間だから人もまばらだし、どちらかと言えばオフィス街なので、遊びに来ているような人は少ない。
みんな仕事中みたいで、カフェのオープンテラスでお茶をしている人ですら、パソコンとスマホを片手に何やら難しい顔をしている。
スマホで検索しながらジェラート屋を目指して歩いていくと、少し向こうの方にお菓子の家みたいな可愛らしい店舗が見えてきた。
「あ、あれじゃないですか?」
「あぁ、そうだね。お店の名前も合ってるみたいだし、早く行こう……ん?あれって…」
ふと足を止めた神谷さんにつられて俺も足を止める。
その視線の先を一緒に追っていくと、よく知る顔が木陰のベンチに座っているのが見えた。