第1章
「そろそろ仕事に戻らなくていいんですか?遅刻したら大変ですよ?」
「大丈夫だよ、俺たちあと二時間は休みだから!それに、もっとここでちゃんとおしゃべりしてたいしね」と、神谷さん。
「そうそう!ちゃんともっと仲良くなりたいな~」
「ちょっ、いやらしい目で見ないでくださいよ、わき汗クソ先輩!」
「なんだとう!」
先輩に向かってとんでもない暴言だとは思うが、俺と小野さんはこういう軽口も叩けるくらいには仲がいい。
小野さんだって冗談だと受け取ってくれているはず…だから大丈夫。
それに、今何よりも優先すべきは、の身の安全だ!
ニコニコしながら、少しずつに近寄っていっている二人の間に割って入ると、俺はをかばうようにして立ちふさがった。
何か俺、格好良くない?アニメではよくあるけど、現実世界でこんなことするのって、あまりないよね。も俺のこと頼もしく思ってくれるかな…。
なんて思っていたのに、背後から飛んできたのは、鈍器で殴られたみたいな衝撃を与える言葉だった。
「裕くん!先輩に向かってそんな言葉遣い失礼だよ!」
「はうっ」
ドギャーンと、ジョジョばりの効果音が出そうなほどの衝撃を受けた。
そんな…俺、のために頑張ったのに…。
涙が出そうな顔をして振り向いた時、俺に向かって手刀を振り上げるの小さな手が見えた。
ズビャッと、まるで刀で袈裟懸けに切られるみたいにして首の付け根を軽く叩かれる。
「ぐわっ!首切られた!!」
「また、つまらぬものを切ってしまった…」
も大概アニメ好きだ。ちょいちょいこうやって、名台詞をぶっこんでくる。
これだから一緒にいて楽しいんだ。他の誰といるより、といるのが最高に楽しい。
思わず笑いがこみ上げてきて、さっきまで泣きそうになっていたことなんてどこかに吹き飛んでしまった。
声をあげて笑うと、それによく似た笑い声をも上げ始めた。
きゃっきゃと笑い声をあげる俺たちに向かって神谷さんが、
「なんっだ、この可愛いイキモノたちは!!」
と声を張り上げたのが聞こえたのだった。
終!