第1章 邂逅
「キッドだ!」
「キッドが出たぞー!!」
周りもようやく気付いたようで、口々に怒号が上がる。
キッドは気にもとめない様子で、銃を構え、天窓へ向け引鉄を引いた。
しゅるしゅると、ワイヤーが音を立てて飛ぶ。
ぱりん、と華々しい音と共に硝子の天井が割れ、きらきらと破片が舞い落ちるのが、今の雰囲気に似つかわしくなく美しい。
ワイヤーの先の金具が格子に引っ掛かったのを確かめると、キッドはそれを頼りに跳び上がる。
今夜は満月。
真ん丸い月に向かい飛ぶようなその動きから、目が離せない…
とん、と屋根の梁に降り立った彼は、まるで何かを確認するように宝石の中心に目を凝らすと。
ほんの一瞬、寂しげに目を伏せた…
憂いを帯びた深い青色の瞳がゆらり、と揺れ。
それから、明らかに私に向けて微笑んだ。
「月下のショーはお楽しみ頂けましたか?お嬢様」
そして、白い手袋からまるで零れ落ちるように…
月光に混じって、紅いあの石が降ってくるのを、寸での所で何とか受け止める。
ふわり、と舞い込んだ風が、シルクハットから覗く彼の柔らかい髪を揺らした…
「それではまた、お会いしましょう――
今宵の様な、月明かりの下でね」