第6章 回答
「…いいえ」
彼だけに通じた暗号の理由、度々感じてきた既視感を、違和感を、彼とキッドを繋ぎ合わせる材料にする。
私の返事に、また驚いたキッドにしがみつくように、タキシードの袷の部分をきゅっと掴んだ。
「私は、キッド…貴方を、彼女から盗みたいのです」
抱えられている側が何を言っているのだろう、と可笑しくなりながら…いつか彼が美しいと言ってくれた、両の眼でじっと見つめると。
観念したように、キッドは笑ったまま、小さくため息をついた。
「なら…しっかり、捕まっていて下さいね」
何処にしまってあったのだろう、キッドがベルトのバックルを弄るとばさり、と翼のようにハングライダーが広がり。
おあつらむえきに吹いてきた風に乗るようにフワリ、と宙に舞い上がる。
心配げな中森さんの声、そしてお父さんの声、警部さんの怒号なんかを後ろに聞きながら、しかし振り返る事もせず、浮遊感に酔いしれる。
そして、浮かれきった私の顔を見つめる、優しくも浮かない顔に気付き、おかしいほどの満足感に囚われた。