第1章 犯罪者の娘
「全く……1人の女子に寄って集って、みっともない事を!」
クラスメイトを追い払ってくれた男の子は、ズレた眼鏡を戻しながらそう言って憤慨していた。 真面目そうな子だったと記憶している。名前はもう、忘れてしまったけれど。 彼は私の夢を馬鹿にしたクラスメイトの言葉を聞いていたらしく、自分もヒーローになりたいのだと教えてくれた。 “個性”は「エンジン」で、とにかく早く走る事が出来るし、兄はあのターボヒーロー・インゲニウムであることも。 私は頷きながら聞いていた。
「君の“個性”は?」
「私のは「風神」。 風を操ったり生み出したり出来る……」
「へえ……!」
「ちょっとやってみる……」
海風を少し男の子に向けると、彼の髪が靡いた。 強くなった潮の香りを今でも覚えている。
「おお……! 凄いな! 君の“個性”は」
「……」
彼は乱れた髪を手で直しながら、私を褒めてくれた。 優しい言葉は嬉しかったはずなのに、あの時の私は涙を流してしまったんだ。
「……どうしたんだ!? どこか痛むのかい!?」
あたふたして、ぴっしりと伸ばした腕を彷徨わせる男の子。 全然答えになっていないけれど、私はぽつりと呟いた。
「ダメなんだって……」
「うん……?」
案の定、彼は首をかしげた。
「犯罪者の娘は、……ヒーローになれないんだって……だから、」
「こんな“個性”、持っていたって意味が無いんだよ」 私はそう言おうとした。 けれど言えなかった。
彼が強い力で私の両肩を掴んで、目を合わせてきたからだ。 突然の行動に驚いて、声が出なかった。
「そんな事があるものか!」
彼は私の目を見たまま、言ったんだ。