『探偵』前世の記憶を思い出した時、彼は私の恋人でした。
第3章 記憶を思い出したら『緑川景光』の恋人でした。
景光くんだった。彼は景光くんだ、見間違えるわけがないのだ…でも違うと言われた。私のことを覚えていないという素振りを見せられた。私は頬に伝う涙を拭いながら家まで走る。玄関に押し入るように入り、私は泣いた。彼にとってはもう終わったことだったのだろう、でも生きていてくれて良かった…そう思いたいのに。会えたらきっと私のもとへと帰って来てくれると、馬鹿の一つ覚えのように焦がれていた自分自身が恥ずかしい。
「景光くん…ひろ、みつ、くっ…」
愛しています、誰よりも…なによりも…そう言葉にすることが出来なくて私は彼の名前を紡いだ。
ーーー。
数日後、東先生が学校を辞めたことを聞かされた。どうして?と生徒はショックを受けており、私も急だったから首を傾げるだけである。そんな時蘭さんや園子さんに誘われて私はあの憧れのポアロに来ていた。なんでも「イケメンの店員さんが、どうしても都先生に会いたいと言っていて!来て頂いても構いませんか!?」と二人に誘われたからだった。降谷くん…私になにを思って呼んだのだろう。もしかして景光くんのことを忘れろとか、もうこちらに関わって来るなとかそういうことだろうか。そう気持ちはモヤモヤしているが、やはりファンとしてはどうしても見ておきたかったポアロの誘いには断れなかった。興奮と感動が入り交じり、ワクワクとした気持ちで中へと入る。
「いらっしゃいませ」
「安室さん、こんにちは!」
「はい、こんにちは…初めまして、弥刀さんですね?蘭さんや園子さんからお噂は聞いていますよ」
「あはは…噂、ですか…」
なにを彼に吹き込んだのだろうか。降谷くんの営業スマイルが既に恐怖でしかない私は乾いた笑顔を作ることが精一杯で逃げるように席へと腰掛けた。アムサンドならぬ、ハムサンドを注文してたあいのない話しをする。新一くんや真くんの話しを聞き、私は笑う。私も昔はこんな感じで恋愛に臆病じゃなかったのになー…なんて思いつつアイスティーを飲んだ。
ーーー。
「これ、僕の連絡先です」
「えっ…」
「ご連絡下さい、待ってます」
高校生に出させるのは忍びない為、私が三人分の代金を払う。するとレシートの裏に文字を書いた降谷くんはそっと私の手にお釣りとレシートを置いて、優しく包み込むように手を添えられた。降谷くん…私にハニトラをしたところで情報なんてなにもないが。