第5章 涙と朝露
夜色の瞳と、空色の瞳が交差する。
少しの沈黙の後、先に口を開いたのはギンだった。
「何が不気味なんか分からへんけど」
ギンは少女の瞳をじっと見たまま言葉を紡ぐ。
「初めて見た時から、思っとった」
不安そうに次の言葉を待つ少女にゆっくり近づいて行く。
「キミは、綺麗や」
今度は夜色の瞳が見開かれた。
ギンは真剣な表情を崩してふっと笑った。
「一目惚れ」
ギンの言葉に少女の白い喉がひくりと動く。
見開かれた瞳から、一粒の涙が零れた。
それを合図に、次から次へと大粒の涙が溢れていく。
もう手を伸ばせば届く距離に居たギンは、薄桃色の羽織を広げて少女の肩にふわりと掛けた。
そのまま、涙に濡れる白い頬にそっと触れる。
「泣かんといて」
昨日は伝わらなかった言葉をそっと呟いて、優しく涙を拭う。
それでも少女の涙は止まらない。
「ボク、キミの涙に弱いみたいやわ」
ギンは困ったように笑って、少女の目尻に親指を滑らせる。
その指が溢れる涙を拭って頬をつたい、顎の先までたどり着く。
少女の顔にすっと影が落ちた。
凪が感じたのは、頬を伝う涙と、唇に触れる柔らかな熱。
それ以外の感覚は、今は失くしてしまったようだった。
どのくらいそうしていたのか、急に目の前が明るくなって唇に感じていた熱が離れた。
涙で歪んだ視界に映ったのは、さらりと揺れる銀色の髪。
「ちょっと落ち着いた?」
癖なのだろうか、少年が少し首を傾げる。
まだ少し溢れ出す涙を拭われながら、凪は動かない頭を無理に働かせた。
(今、何を…?)
肩に掛けられた羽織を少し握る。
この羽織をかけられて、涙を拭われて、それで…