第6章 柿と羽織
続けるべき言葉が出て来ず、凪は顔をしかめて再び羽織を握りしめる。そして絞り出すように言った。
「だからこれは、両親にもらったすごく大切なものだったの……改めて返してくれてありがとう、ギン」
ギンは羽織を握った凪の手に自分の手を優しく重ねた。
「ボクもキミの大事なもん、返せてえかった」
触れた手の温もりに凪の顔が少し和らいだ。
「...ありがとう」
もう一度言って凪はギンの手を握り返した。一息ついて、ふと辺りが薄暗いのに気付く。
「もうこんな時間?!」
凪はギンの優しさに甘えて、一人で話しすぎてしまったと慌てた。
「せやね。灯りでも点けよか」
ギンは全く気にしていない様子でそう言って、部屋に置いてあった行灯に手早く火をつけた。薄暗かった部屋に優しい明かりが広がる。
「ごめんなさい、すっかり話し込んでしまって…」
凪はバツの悪そうな顔でギンを見る。
「エエよ、ボクは凪のこともっと色々知りたいし。それに今日は泊まっていくやろ?」
ギンはまた何でもないようにさらっと言った。動揺したのは凪の方だ。
「え、えっと、泊まるって...?」
ギンは今度は悪戯っ子のようにニヤリと笑う。
「あかん?」
首を傾げてこちらを見るギンに、なんと返していいかわからず凪はただ慌てる。
両親が死んで、それまで家族で住んでいた家に一人で住むのが辛かった凪は家を売りに出してしまった。
真央霊術院に戻れば寮があったし、卒業して護廷十三隊に入隊すれば瀞霊廷に住むことになるからと、今は家を売ったお金を使って安い宿を転々とする生活を送っていた。
確かに今日もどこかに宿を取ろうと考えていた凪にとって、ギンの申し出は願ってもないものだった。多少のお金があるとはいえ、これから一人で生きていかねばならない凪はできれば節約に努めたい。
しかし、今回の問題はそこではない。
どう答えようかあたふたする凪にギンが笑みを深めてさらに追い討ちをかけた。
「…って言うても、布団ひとつしかないけど」