第3章 夢と過去①
「まっくらな中に、いる夢…」
その恐怖を思い出したのか、凪の体が少し震える。
「なんにも見えないし、なんにも聞こえないの…こわかった…」
そう言って今にも泣き出しそうな我が子を和真が優しく抱きしめた。
「もう大丈夫だ。父さんはここにいるからな」
その言葉に凪が顔を上げる。
そして…いつもと変わらない夜色の二つの瞳が、安心したように揺れた。
(…金色じゃなくなってる)
一時的なものだったのか、何かに左右されるのか。
こんなことはもちろん初めてだ。
分からないことが多すぎたが、目の前の小さな娘を不安にさせまいと笑う。
「実はまだ夜中なんだぞ、凪。怖いかもしれねぇが、もう一回寝ようぜ」
「…父さま、どうしても寝なきゃだめ?」
「だってお前、明日は父さんと商店街に飴を売りに行く約束だろ?お寝坊さんは置いて行っちまうぞ?」
不安げな娘の頭をくしゃりと撫でる。
家業の飴売りについて行きたいと言ったのは凪自身だった。
自分の頭を乱暴に撫でる大きな手を、小さな手がそっと掴む。
「じゃあ父さま、手をつないでてくれる?」
「もちろんだ」
もう一度、今度は優しく頭を撫でて凪を布団に促す。
そして約束通り手を繋いでやると、案外すぐに規則正しい寝息が聞こえた。
愛しい娘がもう悪夢を見ないよう願って、和真も目を閉じた。
凪が同じ夢を見たのは、それから一ヶ月後だった。