第3章 夢と過去①
凪は四つの時、初めてあの暗闇の夢を見た。
一人で右も左もわからない闇の中に放り出されて、幼い少女は震え上がる。
小さな己の体を必死に抱きしめ、夢なら覚めろ、早く覚めろと何度もつぶやいた。
その言葉は小さな寝言として、現実にも漏れていた。
凪の隣で寝ていた男が気付いて起き上がる。
「凪、大丈夫か?」
彼女の父、和真(かずま)はうなされている我が子の額の汗を拭き取りながら、体を揺する。
「…と、う…さま…?」
しばらく唸って、そしてゆっくりと瞳を開いた娘を見て、ほっとしたのは束の間。
今度は和真の額に汗が浮かぶ。
「お前…その目はどうした!?」
凪の左目が金色に染まっていたのだ。
まだ寝ぼけている娘の肩を掴む。
「父さんが見えるか?!痛いところはっ」
寝起きに飛んでくる矢継ぎ早な質問に、凪は少し顔をしかめた。
「父さま、肩が痛いよ…」
焦って無意識に力が入りすぎていた和真は、慌てて力を緩めた。
すまん、と言いつつも肩を掴んだ手はそのままに、娘の瞳をのぞき込む。
その左目はまだ金色をしていた。
「凪、俺のことが見えるか?」
「え?…う、うん」
質問の意図がわからないといった顔をする娘に、本人が自らの変化に気づいていないのだと悟った。
「痛いところも無いんだな?…なんでうなされてたんだ?」
前半の質問にこくりと頷きながら、凪は自分の着物の裾を握りしめた。