第11章 嘴平伊之助
「食事中に席を立たない!!」
「うおっ!?!?」
私は嘴平さんの腰のところを掴んで無理やり座らせる。
「な…何しやがるんだ!! 俺はメスだからって容赦はしねぇ……」
「食べ物が口に入っているのに喋らない!!」
「うぐっ!!」
嘴平さんが私に差す指をペシっと下に払うと、過剰に指を抑える嘴平さん。
「い……痛くねぇぞ!!!! こんなんで俺が痛がると思ったら大間違いだ!!」
「私もそう思います。はい、お箸持って」
私が無理やり箸を嘴平さんの手に持たせると、苦痛という表情をする。もちろん、今は食事中なのであの猪の複製は外している。その時も一悶着あったのだが…。
「………っ!!!!!!!! おい、でこっぱち!!!! こいつ、テメェの妹だろ!!!! さっさと止めさせろ!! うざったくてしょうがねぇ!!!!」
「私の兄はでこっぱちっていう名前じゃありませんよ嘴平さん」
「うぐぅ!」
今度は兄に差した指を私は下に払う。今度も過剰に痛がる素振りを見せる嘴平さんに、私はため息をついた。もちろん、わざとだ。
「………今日も嘴平さんは…お箸に負けたのですね」
「はあん!? んだとコラァ!! 誰がこの棒切れに負けるかふざけんな!!!! 見てろよ!!!!」
ばくばくと勢いよくご飯を口の中に入れる嘴平さんだったが、きちんと箸を持って食べている。そして、米粒ひとつ残さず綺麗に食べ終わった嘴平さんは、私に空のお茶碗を見せる。
「どうだ!! こんな棒切れ如きに負ける俺じゃねぇんだよ!!!!!!」
私の挑発にニヤリと笑う嘴平さん。この人にはこのように焚きつけるやり方がいいと知ってから私は最後にこういうようにしている。
「はい!! 素晴らしいです嘴平さん!! 昨日より綺麗にお箸使えています!! 流石、山の主を討ち取っただけあります!!!!」
「ギャハハハ!!!! ようやくテメェも俺様の強さが分かったか妹!! この嘴平伊之助様を舐めんじゃねぇ!!!!!!」
満足気に筋肉を見せつけるようにしてマッスルポーズをする嘴平さん。私はぱちぱちと手を叩きながら、ふと茂のことを思い出していた。
「…そう言えば…茂にお箸の練習をさせる時もこんな感じだったなぁ」
私の横で兄がそう懐かしむ声が聞こえ、その隣では我妻さんが顔を真っ青にして震えながらご飯を食べていた。