第11章 嘴平伊之助
嘴平伊之助さん。猪の剥製を被った山育ちの人であり、私たちと同じ最終選別の合格者。彼を初めて見た瞬間、私は茂や花子、六太を初めて怒ったときのことを思い出した。
「貴方も怪我をしているのに、そんなことをしたら悪化するでしょう!! 止めなさい!!」
その人は肋を数本折っている兄に頭突きをしたのだ。私が大きな声を上げると、その人はビクッと体を震わせた。
「だ…誰だ!!!! このメス!!」
私はその人の下の服を掴んで上に持ち上げた。咄嗟に蹴りやグーパンを繰り出すその人を、私は軽くもう片方の手で払い除けた。
「あぁ、伊之助は昨日寝ていたから知らないんだな。俺と禰豆子の妹の竈門幸子だ。幸子、こっちは嘴平伊之助」
兄がにこやかに私たちを紹介してくれたが、私は怒った顔を崩すことなく、嘴平さんに顔を近づける。
「嘴平さん、兄に謝って下さい」
「は、はぁ!? なんでそんなことしなきゃいけねぇんだ!! 断る!!!!」
ぷいっと顔を背ける嘴平さんに私はため息をつき、さらに高く彼を持ち上げた。
「……ではちゃんとごめんなさいをするまでこのままです」
「は……はぁ!?!?!? ふざけんなよメス!!!! さっさとおろしやがれ!!!!」
「お断りします」
嘴平さんは憤慨していたが、私は素知らぬ顔で彼を高く持ち上げたままじっと彼を見る。
「嘴平さん、ごめんなさいは?」
「……断る…」
「ワガママ言わないでください。貴方、こんなことも出来ないんですか?」
「んなぁ!? できるわ!!」
そういった後、嘴平さんはしまったと口元に手を持ってくる。私はニコッと笑った。
「では言えますね。悪いことをした時には?」
「ご………………ご…さ…い」
渋々と口をもごもごさせる嘴平さん。所々聞こえず五歳と聞こえたが…まぁいいでしょう。私は彼を下ろした。
「ちゃんとごめんなさい言えましたね!! 偉いですよ。嘴平さんはごめんなさい言える強さを持っているんですね!!」
「お…………おうよっ!!!! なにせ俺様は山の主を倒した男!! 嘴平伊之助様だぜ!!!!」
「山の主を? 凄い凄い」
私が手を叩いて褒めると、調子を取り戻したのかギャハハハ!!と高笑いする嘴平さん。
「お…おい…炭治郎。幸子ちゃんって何者なんだ…。あの野生児に謝罪させたぞ…」