第9章 それぞれの任務
「……あなたが困惑するのも無理はありません。お館様はその可能性を考えられ、そして私たちに今回のことを命じられました。さらに、その際に鬼舞辻魅子改め竈門幸子が鬼側の人間でないことを確かめることも言い渡されました」
…つまり、柱を2人配置し、この家で私を見張らせ…もし鬼を手引きするような素振りを見せたら敵側と判断し切り捨てろ…とそういう事か…。しかし、お館様の考え通りだったならば、ここは今頃鬼の屍が転がっているはずだ。しかし、私の記憶が正しければ鬼の襲撃どころか鬼の姿さえ見ていない。
「結果、鬼はこの家に現れませんでした。それどころかこの周辺に鬼の気配もありません。そして、君のお兄さん…竈門炭治郎が鬼舞辻無惨と遭遇し、その追っ手を撃退しました」
「きっ、鬼舞辻無惨と遭遇!?!? 追っ手!?!?」
突然知らされた報せに私は驚愕した。心の臓が早く脈打つ。兄が…あの男と……
「お兄さんは無事ですよ。無傷ではありませんが」
私の慌てる様子を見てか、宥めるように胡蝶さんが言った。損傷は負ったものの、命に別状はない…。私は無意識に自分の腕を掴んでいた。
「お前は私の娘だ。地の果てまで行こうともな」
あの男が…みすみす逃したりするはずがないのだ。あらゆる手を使ってこれから兄を殺しに来るだろう。脳裏に血にまみれる兄の姿が浮かび、私は胸を抑えた。嫌だ!!嫌だ嫌だ嫌だ!!!!!またあの男に私の大切な人たちを奪われるのは………
「幸子さん。大丈夫ですよ」
気づけば…私は胡蝶さんの腕の中にいた。あったかい…優しい匂いがする…。胡蝶さんは私の頭をそっと撫でた。
「お兄さんは今次の任務へ向かっています。貴方方と同じ最終選別を合格した仲間がいますので心配はいりません。それに、貴方の疑いも無事晴れました」
胡蝶さんの心地よい声に少し落ち着いた私が顔を上げると、私に向かって綺麗に微笑む胡蝶さんの姿があった。