第2章 残酷
兄は想像以上に速かった。いつもは私たちの足に合わせてくれていたのだろう。お母さんじゃ絶対に追いつかなかった。やっぱり私が行ってよかったと私は思いながら、足を進めた。こうしていれば、いつか追いつくだろうと……
「幸子、どうしたんだ?」
それは思った以上に早かった。私はホッとして、待っていてくれた兄の元へ歩いた。久しぶりにこんなに走った。
「忘れ物。お母さんがお兄ちゃんにって」
「お弁当か?よかったのに」
お弁当を受け取ると、嬉しそうに笑う兄。その笑顔を見てると、私は心底届けて良かったと思った。
「ありがとう。幸子は優しいな」
「ううん。私たちのために山を降りるお兄ちゃんの方が優しいよ。雪が降ってるから気をつけてね」
私は首に巻いていた布を兄の首元に巻き付けた。
「お前が帰る時寒いだろ?」
「大丈夫。帰りも走って帰るから。後片付けがまだなんだ」
こういうと、兄は微笑んで私の頭を撫でた。
「…ごめんな幸子」
「なんでお兄ちゃんが謝るの。お姉ちゃんにまた怒られるよ」
私は笑いながら、何事でも抱え込んでしまう長兄を抱きしめた。
「いってらっしゃい。気をつけてね」
「ああ。行ってくるよ」
私は兄を見送ったが、すぐにその後ろ姿は見えなくなる。何度も振り返って、私が振る手に応じていたのにも関わらず。
「さて、私も帰りますか」
そして、私もまた走って来た道を戻って行った。