第8章 おかえり
「………え……」
俯いていた兄が顔を上げ、私の指さす方を見る。そして……
「あーーーっ!! 禰豆子ォ!! お前っ…起きたのかぁ!!」
そこには、鱗滝さんの家の扉を突き破った姉がいた。姉は兄の声に反応して、こちらに走り出す。
「禰豆子っ…」
兄は足を早めようとしたが、足がもつれて倒れ込む。私は兄と自分と体重を支えることが出来ず、2人揃ってすってんころりん。
「うぐっ!!」
満身創痍な二人とも、ろくに受身を取る事も出来ずに潰れた蛙のような声が出る。
「いたたた…ごめんお兄ちゃん…」
私の分まで庇ってくれた兄の体を起こすと、私たちに小さな影が覆いかぶさった。
「…………お姉ちゃん……」
ふわっと柔らかい髪が頬を擽る。姉を呼ぶと、しっかりとそれに答えてくれ、姉は私の方に頬を擦り寄せてくれる。
「わーーーー!!!! お前なんで急に寝るんだよォ!! ずっと起きないでさぁ!! 死ぬかと思ったたろうがぁ!!」
兄が我慢していた糸が切れたのかわんわん泣きじゃくる。それにつられ、私の目からもポロポロと涙が零れた。
「おね…お姉ちゃん…お姉ちゃん!!!! やっと起きた!!!! よかった…よかったよぉ」
2人で泣きながら姉に話しかけていると、がしっと大きな影に抱きしめられた。
「よく生きて戻った!!!」
その影は鱗滝さんだった。涙で視界が歪む彼の姿だったが、鱗滝さんの目からは私たちに負けないくらいの涙が零れていた。あぁ…この人も恐怖と戦っていたのだと知り、私は彼の袖を強くにぎりしめた。
「うろ……鱗滝さ……!!!!」
「炭治郎、幸子。生きて戻ってくれて……ありがとう」
そして、私達は日が暮れても尚、抱きしめあったまま泣きあった。そして、鱗滝さんが用意してくれたご飯を3人で食べた。久々に食べた鱗滝さんのご飯はなんとも美味であった。