第8章 おかえり
「いくらなんでもやりすぎだよ」
私は疲弊した兄を支えながら、もう何度目か分からない言葉を口にする。兄は片方は長い木の枝を杖代わりにし、ゆっくりと帰り道を歩いていた。
「だけど、あれ以上はあの子達を傷つける結果になっていた。現にあの少年は幸子が止めに入らなきゃ、あの子達を傷つけていただろ」
もう話すのもきついようで、兄はぜぇぜぇと呼吸をしながらそう言った。私はため息をつく。
「でも、いくらなんでも呼吸を使うなんてやりすぎ以外の言葉もないよ。人を傷つけるために鱗滝さんもお兄ちゃんに全集中の呼吸を教えたわけじゃないでしょ」
「そう…だな…」
それに関しては反省しているらしい。私もこれ以上何も言うことなく、兄を支えることに集中することにした。不意に兄がため息をついた。
「…甘かった。鬼が人間に戻る方法…ちゃんと聞けなかった…」
兄が俯きながら、私にそう零した。私も頷く。
「……私も駄目だった。みんな問答無用で襲いかかってきたし…話にならなかった…」
「そうか…」
7日間の疲弊もあるのか、兄の落胆ぶりが凄い。私は猫背になっている彼の背をそっと撫でた。
「……そんな簡単にいくはずないって分かってたでしょ? 私達は最終選別に受かって鬼殺隊になった…これからだよ!!!! 話を聞いてくれる鬼だっているかもしれない!!!!」
だから、諦めるのは…落胆するのはまだ早い。そう言って、私は力強く足を踏み出した。
「………そう…だな…」
「そうだよ!! お姉ちゃんもきっと大丈夫!! 」
兄の焦りも分かるのだ。姉が目を覚まさなくなってもうしばらく経つ。朝、こてんと死んでいるんじゃないか…そんな考えが頭を過ぎったこともある。しかし…私は何故か自信を持って言えることがあった。根拠は何も無い!!でも…私は真っ直ぐ前を見ながら、タイミングのよいその光景に笑って言った。
「だって、お姉ちゃんが私たちを悲しませるようなこと…するはずないもん。ほら見てよお兄ちゃん」