第7章 山ほどの手が
「……怪我はありませんか?」
私はへなへなと座り込むその人に手を差し伸べる。この人の刀は綺麗なままだった。最終選別にまだこの人は早いように感じられた。
「………あ……な、なんで…俺…俺は……」
あの化け物から逃げてしまったのに何故助けるのか…。その人はそう言いたいのだと容易に想像できた。しかし、私はそれに答えることが出来なかった。
「人肉みつけたぞぉぉ!!!!!!!!」
鬼が後から後から現れるからだ。私はその人を無理やり起こす。
「死ぬか戦うか選んで!! 分かるでしょ? このまま逃げ続けても死ぬだけだって!!!!!! 貴方はなんでここにいるの!!!!!! 死にたくないなら戦え!!!!!!」
次々と現れる鬼の攻撃を受けながら、私はそう叫ぶ。その人は震えながら、刀を鬼に向けた。……うん、それでいい。この人は大丈夫だと私は目の前の鬼に集中する。
「…………はぁ…はぁ………はぁ……」
何人倒したのだろう…。私は地面に膝をついた。恐らくこれらの鬼達は、あの異形の鬼のおこぼれを貰おうと狙っていたのだろう。彼のように逃げ延びて安堵している不意をつき、できるだけ多くの食事にありつくために。
「き、君……大丈夫か?」
汗を拭いながらその人は私に近づく。その人の腕には大きな傷があり、その傷が鬼たちを引き寄せてしまったのだと私は知った。
「君のお兄さんには本当に悪いことをしてしまった…。俺も戻ってあの異形と戦う………」
先程とはまるで別人だ。恐怖は人を変えてしまうらしい。私はその人に笑いかけ、重い腰を上げた。兄は大丈夫だろうか…。兄を置いてきた方向を見ると、突然大きな音が辺りに響いた。この音は……雷!?
「な、何だ……!?」
あまりの振動にビリビリと肌を突き刺すような痛みを感じる。………お兄ちゃんごめん!!
「これで止血し、この花を持ってここで待っててください!!!!」
私は使い道があるだろうと持っていた紫色の花と綺麗な布をその人に渡し、雷が落ちた方へ走り出した。
「これは藤の花…あっ!!!! 君!!!!」