第7章 山ほどの手が
倒せた…鍛錬は無駄じゃなかった…!! そんな思いが駆け巡る。私は兄を振り返った。兄もきっと同じ気持ちだろうと思って。
「…………成仏してください」
しかし、兄は体の崩れた鬼達に両手を合わせていた。ボロボロになって体が崩れていく彼らはそれを少し驚いたように見て、そして最後に目を細めて消えていった。私は自分が斬った鬼たちを見た。
「………くそ…くそくそくそくそ!!!! こんな餓鬼にやられるなんて!!!! 最悪だ!!!!!!」
1人は悪態をつき、もう1人は静かに消えようとしていた。
「…………どうか成仏できますように」
「あぁ!? ふ…ふざけんな!!!!!!」
鬼は怒りをあらわにし、怒鳴った。もう体は崩れ、残った首も崩れかかっている。
「ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな!!!! 鬼狩りが何自分が斬った鬼に手を合わせてんだ!!!! お前らのせいで俺は消えるんだぞ!!!!!! まだまだ喰い足りなかったのに!!!!!! ふざけんな!! ふざけんな……」
「………ありがとう…」
無言だったもう1人の鬼がか細い声を出した。目を開けてそちらを見ると、その鬼は最後に笑っていた。
「はぁ!? てめぇ何言って………」
その鬼が消え、最後に残った鬼ももう消えかかるといった時……
「………くそ…くそくそくそ……」
最後にその鬼は涙を流し…そして彼も消えて行った。
「…………あの鬼からも…最後に悲しい匂いがした」
そう言う兄が今にも泣きそうに顔を歪めるので、私は彼の肩を軽く叩く。
「そうだね。消えていく鬼は…最後に人間だった時の記憶が蘇るのかな…。みんな遠くを見るようにして消えていったよ」
兄は私の言葉に微かに笑みを浮かべる。そして、今度は兄が私の頭を軽く撫でた。
「…そうだな。できることなら、幸せな記憶が思い出せたらいいのに」
何とも兄らしい言葉だ。下手すれば私たちの方が死んでしまっていた可能性もあるのに…。襲いかかってきた相手に向かって、つかの間の幸せを祈るだなんて。だが、この優しさに鬼も救われるだろう。彼らは…優しさとは無縁の暗い世界で生きているのだから。