第2章 残酷
私は暗いところにずっといた。陽の光なんて知らずに私は育った。そのためか、私は人よりも身体は小さく、未発達な部分も多かったと思う。
竈門家に来たのは、まだ父が元気だった時。まだ私より下の子たちは生まれてなくて、子供は兄と姉しかいなかった。
私は逃げ出してきた。怖くて辛い現実から。怖くて怖くてしょうがなくて、でも自分じゃどうしようもできなくて…。動けなくなるまで走って逃げた。そして、気づいたら、竈門家にいた。
「大丈夫? 痛いところはない?」
母も父も優しく、私は2人の優しさに涙でいっぱいになった。まだ幼い2人の兄姉も懸命に私の手当をしてくれ、笑いかけてくれた。しばらく、人と過ごしていなかった私にとって、苦しいほど優しい家だった。
だから、逃げ出した。
苦しかった、辛かった、そして怖かった。私は疫病神だったから。あの家を壊したくなかったのだ。でも、気づいたら父の胸の中にいた。細く、今にも倒れてしまいそうな父だったが、心の臓の音は力強く鳴っていた。父は言った。
「うちの子におなり」
それから、私は竈門家の子供になった。幸せだった。初めて出来た兄妹、初めてみる赤ん坊…優しい父と母。暮らしは決して裕福とは言えないものだったが、私はそれでも良かった。私は家族が大好きだったから。余所者の私に笑顔を向けてくれ、姉と慕ってくれる。
だから私は答えた。
「どこにも行かないよ。行くわけがない。私は皆のお姉ちゃんだからね。」
私はそう答え、茂を抱きしめた。茂はホッとしたように私の胸に顔を埋めた。
「でも幸子姉ちゃん。お兄ちゃんとお姉ちゃんは幸子姉のお兄ちゃん、お姉ちゃんだよね」
私は笑いながら彼の頭を撫でた。
「そうだよ。でも、私もお姉ちゃんでしょ?
ほら、早く顔を洗って、着替えておいで。朝ごはんにするよ」
「うん!!」